悪徳ビジネスの餌食になる若者たち、なぜ詐欺師が語る夢に依存するのか

モノなしマルチ商法情報商材
若者を狙う悪徳ビジネス
 大学生の息子が怪しい投資セミナーに通っているようです。「友達に紹介されて、伝説のカリスマに会った」「人生観が根こそぎ変わった。自分は雇われない生き方をする」などと興奮しています。そろそろ就職活動を始めなければいけない時期だというのに――。どうやら学生ローンで借金し、そのカリスマ先生とやらの教材やセミナー代に充てているらしいのです。心配でなりません。

 

1995年に起きた「地下鉄サリン事件」を知らない世代が、今ひそかに悪質商法、詐欺のターゲットになっている。

 

「昨年7月6日にオウム真理教元代表松本智津夫死刑囚の死刑執行が行われ、『そんな事件があったんだ』と興味をそそられた若者もいたことでしょう。しかし、松本死刑囚という人物について面白おかしく語られることはあっても、狡猾きわまりない教団の信者獲得テクニックについては、理解が広がらなかったのではないでしょうか」

 

 異性から接近され、デートを繰り返すうち金品を巻き上げられてしまう「デート商法」。就活塾にしつこく勧誘され入会したところ、高額の研修費用、イベント参加費用などを請求される「就活商法」。SNSで友人に誘われ、スタートアップの勉強会に参加したところ、高額な受講料を支払わされる「悪質起業セミナー」――未経験の若者を狙う悪徳ビジネスは、じつにさまざまだ。

 

 特に最近増えているのが、モノではなくもうけ話を持ち掛ける「モノなしマルチ商法」である。アフィリエイトなどの副業や仮想通貨、ファンド型投資商品を勧め、「友達を紹介すればキャッシュバックされる」などと言葉巧みに契約させる。だが、実際には説明されたようなもうけがあるわけでもなく、返金を求めても交渉が難しい、といったケースが相次いでいる。

 

 国民生活センターによれば、29歳以下の若者におけるモノなしマルチ商法についての相談件数は2018年度では2481件と、2014年度の859件に比べて3倍近くにのぼる。

 情報商材の相談も急増中だ。自称、“巨万の富を稼ぎ出したカリスマ”が広告塔として現れ、「誰でも簡単に必ずもうかる!」などのうたい文句でPDFや動画、アプリを高額で販売する、といったものである。同じく国民生活センターによれば2017年度の相談件数は6593件。一度購入すると、さらに高額なコンサルティングセミナーを契約させる業者もいて、被害額が膨らんでいる。

 

「今どきの若者は素直で真面目。裏返せば、自分の判断や能力に自信がなく、友達の承認や評価を過度に求める人が多い。カリスマに憧れて、『この人の言うとおりにすればすべてうまくいく』など、安易に絶対的な信頼感を抱いてしまうタイプもいます」

 

 ある特定の人との関係に異常なまでにしがみつき、心の安定を得ようとする状態を、精神医学では「関係依存」と呼ぶ。情報商材のカリスマや、マルチ商法を勧めてくる友人に嫌われまいと、つい財布のひもを緩めてしまう若者の中には、関係依存の傾向をもつ人も多いのではないだろうか。

 

【だまされやすい人の3つの特徴】

(1)衝動、欲求を制御するのが苦手

 ネットなどでつい衝動買いをしてしまい、部屋はいらないものだらけ、といった人は危険。甘い夢を見がちなところがあり、うまいもうけ話を聞くとついコロっとだまされてしまう。

(2)やさしくて温厚

 和を乱したくない、他人に嫌われたくないという思いが強く、頼まれるとノーといえない。

(3)巧みな話術に乗せられやすい

「なんだかいい人だな、この人の言うことなら間違いなさそうだ」などと、無批判に相手の話を聞き、信ぴょう性を考えない。

3つすべて当てはまるようなら要警戒だ。

 

「どれも日本人にありがちな特徴では。ただでさえ、日本社会は同調圧力が高く、依存関係が働きやすいところがある。周りの意見に合わせるうち、危険か危険でないか自分の頭で判断することすらしなくなってしまうのです」

 

男性の場合、“情報弱者”と思われるのが嫌で、被害を受けたことを周囲に言えないケースも多い。その結果、人知れず借金を抱え込むなど、ますます泥沼にはまってしまうことになる。

悪徳業者、詐欺師のテクニックは
優秀なセールスマンと同じ
 では、詐欺や悪質商法から身を守るにはどうすればいいのだろうか。

 1つは、契約書を受け取ってから一定期間内(契約書を受け取った日を含め、訪問販売などは8日間、マルチ商法20日間)に解約できるクーリング・オフについて知っておくことだろう。訪問販売や電話勧誘などで突然勧誘され、契約してしまった場合やマルチ商法エステ、語学学校などの契約で認められている。また、マルチ商法の場合、事実と違うことを告げられた、あるいは故意に事実を告げられなかったときは、契約の申し込みや承諾を取り消すことが可能だ。

 ただその前に、業者たちのだましのテクニックを把握し、危険かどうか見抜くための心構えをもつことも肝心だろう。

 

悪質商法の手口は、磨き抜かれたセールスの手法と同じ】

「心理学者のロバート・B・チャルディーニは、<返報性><一貫性><社会的証明><好意性><権威性>など、説得のプロが活用する法則をいくつか掲げています。実際、業者のトークを聞いてみると、ごく優秀なセールスマンと同じことを言っている。『あなたのためを思って言うんですよ』『口コミサイトでも評判です』『あの○○さんもやっていました』などなど。複数の法則を巧みに組み合わせて攻めれば、世慣れていない若者などイチコロです」

 相手の信用を勝ち取る“コールド・リーディング”という話術も悪質業者ならばお手のものだ。服装や表情、雰囲気などから相手の状況を推測しつつ、誰にでも当てはまりそうなことを言う。いろいろ話すうち、1つ2つ当たるものがあると、『この人は自分のことをわかってくれる、すごい』とうれしくなり、「そのとおりです、実は…」などと自らペラペラ情報を喋ってしまう。

「さらに恐ろしいのは、あらかじめ入手した個人情報を利用する“ホット・リーディング”。SNSを使っていれば、プライベートな情報はダダ漏れも同然。マルチ商法の場合は、友人から友人へと情報が漏れ伝わっていることも多い。悪質な業者であれば、違法に入手したデータベースや探偵を利用することもあります」

 だまされる若者が増えている背景には長引く経済不安もある。

「“老後2000万円問題”がニュースになるなど、国や社会に対する不安材料は日々増えている。格差も定着しています。何を信じていいかわからず、未来に希望を抱けない若者は地下鉄サリン事件が起きた頃よりもっと多いはず。悪質商法の業者や詐欺師が語る“夢”にすがりたくなるのも、無理はないかもしれません。しかし、だからこそ思考停止状態で他人に依存するのでなく、自分の頭で考え、判断する力を身につけるべきでは。もちろん若者だけでなく、日本人全員にいえることですが」

 2022年、民法改正により成年年齢が20歳から18歳へ引き下げられれば、親の同意を得ずに契約できる若者がさらに増える。息子娘の自立心と判断力を早くから養っておきたい。

 

 

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